今日も君に翻弄される。

「秋庭さん、ですか」

「はい、秋庭です」


勝手に苗字だって早とちりしてたよ。


うっかり和泉さんって何回も呼ばなくてよかった。


秋庭さん、秋庭さん、秋庭さん……。


何度も小声で繰り返して定着をはかる。


もうわたしのうちで秋庭さんはすでに和泉さんだった。


最初「和泉さん」で覚えてしまったものを今から修正するのは少し難しい。


でも、間違って和泉さんって呼ばないようにしなきゃ。


意気込むわたしに苦笑する秋庭さん。


「……和泉でも、良いですよ」

「いえ、お手をわずらわせるわけには……!」


こちらが慣れれば良いだけの話ですから、と言われて、迷わずぶんぶん勢いよく首を振っておいた。


わたしこそが慣れればいいだけの話だもんね。


い、……あきば、さんに、我を曲げてもらうことはない。


そこで係の人が来てお開きになった。


急いで準備をする傍ら、わたしの思考は今だにテストを向いていない。


秋庭さん、秋庭さん、ね。よし。


……でも、そうだなあ。


ご本人の了承もあることだし、心の中でくらい、和泉さんって今までどおりに呼んでもいいかな。


心の、中でなら。

声に、出さないなら。


好きな人を名前で呼んでも、許されるだろうか。


いずみさん。和泉さん。

秋庭、和泉さん。


隣の人を想う度に高鳴るこの鼓動を、人は恋と呼ぶんだろう。