今日も君に翻弄される。

携帯をお互い取り出して、名前を登録する段階になって。


意を決して名前を聞く。


和泉さん、じゃなくて、ちゃんと、フルネームで登録したかった。


「和泉さんですよね? お名前は何て」


おっしゃるんですか、が途切れて形にならなかったのは、和泉さんが目を見張ったから。


……心中勝手に呼んでいたけど、口に出すのはこれが初めてだからかな。


もしかして、勝手に呼ぶなとか思ってらっしゃいます!?


動かない無表情に焦る。


何となく弁明をしなければいけない気持ちに駆られて、必死に言い訳をした。


「あの、初めてお会いしたときにそう呼ばれてらしたので……! じゃなくて本当すみません、あ、というか自己紹介も遅れてすみません、楠葵です!」


まくしたてたわたしにやっと焦点を当てて、和泉さんはやけに迷いを持って口を開いた。


「……確かに」


一旦切って、唇を噛む。


「確かに僕は和泉です。でも……いえ、合わせましょう。葵さん」


あおい、さん?


不穏な呼び名に頬が引きつる。


まさか、……まさか。


こちらこそ自己紹介が遅れてすみません、と彼は呟いて。


「僕は和泉――秋庭和泉です」


慣れないのでどうぞ秋庭と。




特有のものすごい無表情に、背筋が凍る。


…………盛大な間違いが、判明しました。