今日も君に翻弄される。

この状況は違う。


和泉さんに非なんてない。


遠慮がちな微笑みを浮かべさせる必要なんてない。


「忘れてください。……クッキー、頂きます」


かすれた声が足早に耳を駆け抜ける。


何かを考えるより先に手が伸びていた。


「待って、待ってください、」


何故だか喉が詰まる。


「お願いします、待って……」


絡まる喉は苦しいのに、触れた手は熱くて、心臓はうるさく鳴っている。


いずみさん。

和泉さん。


心中祈るように名前を呼ぶ。


「交換、しましょう」


交換しましょう、和泉さん。


見つめた先で瞠目した彼は、わたしの勢いに気圧されて。


かくんと、一つ、呆然としたまま頷いた。