隣で和泉さんがわたしを見ていた。


ひどく真剣な顔をして、わたしに向き合っていた。


「……次、同じところなんですが、また隣に座ってはお嫌ですか」


目を伏せる。


ぐっと息を吸い込むのと同時に開けて、足先から順にたどって、決意とともに仰ぎ見れば。


その、静かなまなざしに射抜かれる。


「いいえ、わたし多分また一人ですから。顔見知りの方がお隣の方が安心します」


友達はみんな自分の塾で受けている。


わたしも塾に入りなさいとお母さんに急かされてはいるけど、何となく入ってなくて、


だから近所の塾を探して模試になると受けて。


つらい時間、和泉さんに会えるのなら、きっと。


「嬉しいです」


こぼれ落ちた言葉はほとんど無意識だ。


だから、そうなのだと思う。


「私もです」


和泉さんは大きくふわっと笑って、最後の一段を下りた。




ぽつりぽつり、言葉を交わしながら歩けば、もう分かれ道。


「あ、じゃあわたしこっちなので」

「あ、はい。さようなら」


来る途中で進行方向の確認はお互いにしていた。


ここでちょうど真逆に進む。


「さようなら。また今度」


深く頭を下げて、ゆっくり前に足を出す。


わたしが角を曲がるまで、後ろに和泉さんの静かな気配があった気がした。