「シャーペン忘れちゃって……」


わたしの申告に見開かれた和泉さんの視線に、意味もなく肩がすくむ。


責めてるとか馬鹿にしてるとか、そういうわけじゃないのは分かってるけど、やっぱり後ろめたい。


「他のはあるんですけど……」


へらり、誤魔化すみたいに笑ったわたし。


悪い癖だ。


和泉さんは少し沈黙して、強い目を上げた。


「鉛筆で良ければお貸ししますよ」

「……え」


思わず驚きがもれる。


鉛筆を二本差し出しながら、和泉さんは冷静に言葉を重ねた。


「マークの時は私はシャーペンではないので、すみません、シャーペンはお貸しできませんが、鉛筆なら沢山持ってきましたから、良ければ」


……饒舌なのは、きっと。


和泉さんも、こういう事態に慣れていないからだ。


慣れていないのに、困っているのを見かねてわたしに声をかけてくれたからだ。


……和泉さん、いい人だなあ。


「ありがとうございます。お借りします」


受け取って机の整理を始めると、和泉さんはやっと椅子を引いて座り直して。


「形勢逆転ですね」


そう言って、微かに笑った。


「……はい!」


わたしまで嬉しくなって、鉛筆を受け取る手に力がこもった。