幸福なキス〜好きになっても、いいですか? SS〜


純一がそんな願いをしたことは、今まで一度もなかった。

ただ生きて、楽しいことなど求めずに、自分を追い詰めて。けれど――。
今度は麻子の髪を攫うように、風が吹く。純一は、その髪を抑えるように、耳元に手を添える麻子を見た。そして、麻子を引き寄せると、自分の胸に抱き締める。


「……あの?」
「知らなかったな……〝幸福〟とは、同時にこんなにも怖いものだなんて」


手に入れるまでは夢中になっているから気がつかない。でも、手中に収めてしまうと、ふと過る。
この〝幸福〟を失ってしまったら――と。


「儚い想いこそ、尊いものです。でも、ご自分で誓ったじゃないですか」


純一の胸の中で、その温もりを感じながら麻子が言うと、その胸に手をあて、彼を見上げた。


「『ずっと、一生、離さない』、と」


緩やかに口角を上げ、優しい眼差しでそう口にする麻子を見ると、純一はどうしようもなく愛しく思う。
人通りがないとはいえ、外にも関わらずに、麻子をもう一度強く抱きしめた。

麻子の肩に顔を埋めるようにして、ボソッと漏らす。


「……出逢ったときから、君は本当に俺を翻弄する……」


まるで子どもが『ずるい』とでも言うような口振りの純一に、麻子は目を丸くする。
抱きしめられたまま、麻子はずっと手にしていた紙袋をガサッと鳴らして呟くように答えた。