*
「何度、私たち父子(親子)を振り回すんですか」
帰り道、敢えて車やタクシーを遣わずに、麻子と純一は夕暮れ時を歩いていた。
「……さぁな」
素っ気なく純一が答えると、麻子が突然足を止める。それにつられるように、純一も足を止めると、麻子を振り返った。
「……ありがとう、ございました」
そうはいっても、全く思い描かなかったわけではない。麻子でも、一度くらいは、思ったことがある。父と並んで歩くバージンロード。それが一番の親孝行であることを。
俯いて言った麻子の顔は、夕陽で赤くなってるのかどうか、定かじゃない。でも、一向に顔を上げないところを見れば、原因は夕陽のせいではないだろう。
二人は、アスファルトに長い影を伸ばしたまま動かない。
すると今度は、純一が静かに話し出す。
「ずっと……羨ましいと思ってた。麻子と、克己さんが。俺には到底手に入らないようなものを、芹沢父子は持っている、と」
純一は、自分の足を見ながら、言葉を紡いでいく。
「人のこととなれば出来ることも、自分のこととなるとまるでダメだ。まさに今回の挙式(こと)がそうであるように……」
ひんやりとした風が、純一の髪を靡かせる。サラサラと、赤い光に透かされて。その前髪の隙間から見えた純一の瞳は、小さな明かりが灯っているように見えた。
「……さすが、早乙女さんですね。あなたのことを、知り尽くしているから――――幸福(しあわせ)を、一番に願ってくれている人だから」
顔を上げた麻子が言うと、純一もまた顔を上げ、そのまま空を仰いだ。
「〝幸福〟か……」
「何度、私たち父子(親子)を振り回すんですか」
帰り道、敢えて車やタクシーを遣わずに、麻子と純一は夕暮れ時を歩いていた。
「……さぁな」
素っ気なく純一が答えると、麻子が突然足を止める。それにつられるように、純一も足を止めると、麻子を振り返った。
「……ありがとう、ございました」
そうはいっても、全く思い描かなかったわけではない。麻子でも、一度くらいは、思ったことがある。父と並んで歩くバージンロード。それが一番の親孝行であることを。
俯いて言った麻子の顔は、夕陽で赤くなってるのかどうか、定かじゃない。でも、一向に顔を上げないところを見れば、原因は夕陽のせいではないだろう。
二人は、アスファルトに長い影を伸ばしたまま動かない。
すると今度は、純一が静かに話し出す。
「ずっと……羨ましいと思ってた。麻子と、克己さんが。俺には到底手に入らないようなものを、芹沢父子は持っている、と」
純一は、自分の足を見ながら、言葉を紡いでいく。
「人のこととなれば出来ることも、自分のこととなるとまるでダメだ。まさに今回の挙式(こと)がそうであるように……」
ひんやりとした風が、純一の髪を靡かせる。サラサラと、赤い光に透かされて。その前髪の隙間から見えた純一の瞳は、小さな明かりが灯っているように見えた。
「……さすが、早乙女さんですね。あなたのことを、知り尽くしているから――――幸福(しあわせ)を、一番に願ってくれている人だから」
顔を上げた麻子が言うと、純一もまた顔を上げ、そのまま空を仰いだ。
「〝幸福〟か……」



