幸福なキス〜好きになっても、いいですか? SS〜


「なんで、ここが」
「雪乃さんから聞いた。雪乃さんは、どうやら敦志くんに頼まれたようだけどな」
「雪乃ちゃんと、敦志……?」


純一は、浅く眉根に皺を寄せ、不思議そうな声を漏らす。純一の父は、小さく一度頷くと、再び話し始めた。


「人生の節目。それと、変わった純一をぜひ見に……っていう話だったんだが……。正直、ついさっきまで、純一の前に姿を現すかどうか躊躇ったよ。
でも――彼女を見る純一の顔が、すごく穏やかで。それに後押しされた」


苦笑しながら純一の父がそういうと、今度は麻子に目を向ける。
初対面が、カタチとはいえ式でなんて――と、その視線に麻子は緊張して背筋を伸ばす。けれど、麻子が心配するようなことはなにもなく。


「……麻子さん、だったね?」
「は、はい」
「こんな機会を与えてくれて、ありがとう」


目尻に深い皺を作ると、秘書顔負けの綺麗なお辞儀をする。
びっくりした麻子は、言葉に詰まってなにも言えずに戸惑った。


「わたしは、家庭の事情から、純一から逃げるようにして生きてきたところがある……住む場所と、食べ物と、学費と、仕事と――そんなものだけ与えては、まともに話もしてこなかった。もちろん、純一を煙たがったりしたことは一度もない。――ただ、怖かった」


純一も初めて聞く父の言葉に、ただただ口を閉ざしたまま聞いていた。