幸福なキス〜好きになっても、いいですか? SS〜


式が滞りなく進み、残すは退場のみとなる。
くるりと体を回すと、まばらな拍手の音が二人を祝福する。後ろでは牧師が。新婦席で、克己が。そして――――。


「……な、んで」


目を大きく揺るがして、そう漏らしたのは純一。
純一の様子に気付いた麻子は、彼の視線の先を辿るように追っていく。そこにあったのは……。

(……誰?)

後方で、黒いスーツを着こなしている、一人の年配の男性。年配と言っても、見た目が少し若く、上品な雰囲気を醸し出していた。
その男性も、二人を真っ直ぐに見ては、口元を緩ませて大きな拍手をしていた。

(……誰かに似てるような――)

麻子は自慢の記憶力を辿るように、その男性をじっと観察する。そして、ハッと気付いた、ある〝予想〟。


「お……お義父さん……?」


その顔立ちは、純一に似ているもの。笑うと優しく下がる目もと、スッと通った鼻筋。
驚いて、隣に立つ純一を見上げると、自分よりも数段驚愕している様子を感じ取る。
動けない純一と、その横で交互に視線を向ける麻子。

その男性は、拍手を緩めながら、ゆっくりと二人の元に近づいて行く。


「……久しぶりだな、純一」
「――――オヤジ」


そのひとことだけのやりとりから、麻子の〝予想〟は的中していたと確信する。

今まで、聞いたことがなかった。もちろん、麻子は純一の父という存在を忘れていたわけではないが、どうも家族について切りこんだ話をするのが出来ずにいたからだ。
純一の父は、純一を捨てたわけではない。しかし、現在の彼と一緒に居て、仲がいいわけでもなさそうだと、麻子は思っていた。