幸福なキス〜好きになっても、いいですか? SS〜


「お父さんっ……ありがとうっ」


男手ひとつで麻子を育て、闘病を経験した父の背中は、改めて見ると一回り小さくて。思わず、去ろうとする父を振り向いて声を上げた
ポロッと頬を伝う涙顔の麻子を見て、克己は眉を下げて呆れ顔をする。


「せっかく綺麗にしてもらったのに、台無しだぞ?」


克己の指摘はもっともで、メイクを綺麗に施してもらったのに、号泣してしまうとボロボロだ。それでも、メイクのことなど気にしてられないくらいに――。麻子の大きな瞳からは、キラキラと光りの粒がとめどなく溢れ出た。

純一がそっと麻子の背に手を添えると、前を向きなおす。
讃美歌が流れているときに、そっと麻子が囁いた。


「……本当、裏で手を回すのが好きですね」


その言葉を受けた純一は、「ふっ」と短く笑いを漏らす。

誓いの言葉を終え、互いに向かい合い指輪の交換をする。そして、麻子が小さく屈むと、純一がそっと麻子のベールに手を掛けた。

伏せていた瞳を、長い睫毛とともに、ゆっくりと開いていく。

数秒間、神に見守られる中で、二人は視線を交錯させる。
純一の顔を正面から見据えると、たちまち色々なことを思い出す。そして麻子は、自分は本当にこの人が大切なのだと認識する。

純一もまた、綺麗に着飾って自分だけを見つめる麻子が、心から愛しくて言葉に言い表せない感情が溢れ出る。


「ずっと、一生、離さない」


牧師にも聞こえない声で囁き、そのまま麻子の腕に手を添えキスをした。