私は、先生達に挨拶を終えると、最後に美術室へと寄った。

「久しぶりだな…」

夢咲に虐められる様になってから、一度も来ていなかった美術室。

ここに来たくなかったのは、自分の絵を好きだと言ってくれた夢咲を思い出すと思ったから。

私の絵を褒めてくれたお父さんとお母さんを、思い出すと思ったから。

だから、今の私の中には絵を描く事が好きという気持ちは、薄れ始めている。

「しばらくは、絵は描かないようにしよ…」

小さくそう呟いて、私は美術室から出た。

昇降口へと向かったとき、私の目の前に夢咲の姿があった。

「何…?」

私は、夢咲に睨み返す。

「あんた、引っ越すんだってね」

「それが、どうかしたの?」

「………」

夢咲は、それっきり口を閉ざしてしまった。

私は、夢咲を無視して横を通り過ぎる。

「そうだ、最後に一つだけ言っとくよ」

これで、もう皆に会うことはない。

「私は、あんたを許さない、それから――――」

言うのを一度ためらったけど、意を決して口に出した。

「あのクラスの皆、大嫌い」

それが、夢咲と話した最後だった。