「ただいま」

家へと着いた私は、ある決心をしていた。

「お帰り望美、ちょうど今ケーキ焼けたけど食べる?」

「は、はい」

駄目だ!今まで敬語を使ってきていたから、いきなり「奈々美さん」って呼ぶのが難しい。

「何をしておるのじゃ望美」

「わ、分かってるよ」

リビングへと向かうと、奈々美さんが机の上に、紅茶とチーズケーキをを用意していた。

「久しぶりに作ったから、上手くはできていないけど」

「だ、大丈夫だよ…」

「望美?」

言わなくちゃ「奈々美さん」って、もうお母さんの代わりじゃなくて。

「た、ただいま“奈々美さん"!」

私が名前を呼んだとき、奈々美さんは持っていたタオルを床へと落とした。

「望美…、あなた」

「もう大丈夫なんです、私はもう奈々美さんには甘えていられない、向き合おうと思ったんです」

奈々美さんは、口に手を抑えて何度も頷いてくれた。

「今までありがとう、私のお母さんの代わりとして、いつも私を見ていてくれて、本当のお母さんみたいで嬉しかった」

「そんなことないよ、私はなにも…」

「お母さんとお父さんが亡くなった時も、ずっと側に居てくれた。お母さんとお父さんが家に居ない時、寂しくて悲しくて、そんな時も奈々美さんは、私のそばに居てくれた」

そして、私が学校で虐められて、私の存在が壊れようとしていた時も、側に居てくれた。

「だから奈々美さん、ありがとう」

私は、笑顔でそう言った。

「……望美!」

奈々美さんは、涙を拭うと私を抱きしめてくれた。