大國君は、私から手を離すと軽く笑った。

「別に、深い理由はない。ただ、そんなふうに感じただけだ」

大國君は、それだけ言うと私に背を向けて行ってしまった。

「な、何だったんだろ?」

触られた頬を指先でなぞってみると、触られたが少し熱を持っているように感じた。

「もしかして、私の顔ーー」

『怪しい男じゃな』

『ひゃあっ!る、ルル!』

私の耳元で、ルルが悩んだ様子で軽く呟いた。

ルルの声に驚いた私は、胸に手を当てる。

『望美、あの男にドキドキしたじゃろ?』

「し……っ!す、するわけないじゃん!」

図星を突かれ、必死に言い訳する。

「望美の好きな人は、奈津なのじゃ」

「き、決まってるでしょ!」

会って間もない男の子に恋をしたとか、ルルはそう思っているのかな?

「望美〜。何してんの?」

少し離れたところで、晶の呼ぶ声が聞こえた。

「ごめんっ!今行くね」

大國君は、深い意味はないって言っていたから、その言葉を信じよう。

だって、もう会うことはないだろうから。

「莎々原望美か……」

振り返った大國君は、二人のもとへと走る私の後ろ姿を見つめた。

「あいつには、渡す気ないから」

この言葉が何を意味しているのか、この時の私は知る由もない。