ボリュームをいっぱいに上げた連の耳には月川の言葉は届いていない。
月川はバックミラーに映る蓮を見てため息をつく。


「やっぱり、あの時もっと反対すれば良かったわね」


言っても仕方のない事を言うのは月川の趣味ではないが、つい口をついて出た。


アイドルをやりながら通信教育で保育士の勉強を必死にして、勝ち取った保育士の資格。
蓮にとっては子供の頃からの夢だった。
それが中学生の時に事務所の社長にスカウトされて、この世界に入ってしまった。
部活の感覚で始めた歌とダンスもやって行くうちに楽しくなり、気付けばグループを組まされデビュー。


「みんなそんなもんよ。蓮さん」


ちょっとふてくされている蓮に小声で言う。


「だから応援してるのに。いつもみんなに夢を与えてくれてるから、蓮さんにも夢を叶えさせてあげたのに。どちらも甘くみちゃダメよ。蓮さんの相手はいつだって『人』なんだから」