意志の強そうな目が私を見つめる。

 両手で、蓋がない底の浅いダンボールを抱えている。

 中には小さなガーベラの苗がたくさん見えた。

「はじめまして。渡辺優子、さんよね?」

 ゆっくりと地面にダンボールを下ろしながら笑顔で言った。

「私は前田かおり。」

「かおり、さん。よろしくおねがいします」

 余計な噂のせいで、変に身構えてしまう。

「かおりでいいよ。よろしく。信也にはもう会ったよね?……ん?なんだか浮かない顔。どうした?」

 本当に心配そうな表情になったかおりを見て、少し気持ちが柔らぐ。

「ここに来る前からラベンダー荘のことは色々聞いてたけど、実際謎のうわさとか聞くと」

 私の言葉に一拍置いて、かおりはしたり顔を作って口を開く。

「わかった、信也でしょ?あいつまだ謎がどうのとか考えてるんだ―――心配しなくていいよ。何か不吉なことが起こるとかそういう意味じゃないから」

「じゃあ、謎って…。管理人さんには誰も会ったことがないって言ってたし」

「それは事実。でも大して困らないわよ」

 かおりは話しながら花壇の前まで行くと、腰を下ろして、よく手入れがされたスコップを手に取った。

「会ったことはないんだけど、管理人の菅野恭子、彼女はすごく気が効くの。前にバイト先で頭にきたことがあってね、帰ってきたら、めずらしくお風呂がわいてて、これが摘んだばかりのラベンダーまで入ってたの。それで嬉しくなって誰がやったのか聞いたら、みんな知らないって。」

 かおりは花壇にサクサク小さな穴を掘り、オレンジ色と赤色のガーベラの苗を手際よく置いていく。

「でも、鍵を持ってるのは私たちと管理人だけ」

「ゆうれい、とか」

「まさか」

「怖くないの?」

 私も腰を下ろして、かおりの作業を間近で見つめる。

「ぜんぜん。むしろ楽しい。」

 どうやら小山信也も前田かおりも、謎の管理人の存在を楽しんでいるようだ。

 かおりも、なにか探してるものがあってここに来たのだろうか。

 聞くタイミングをうかがっていると、かおりが先に口を開いた。