アルマクと幻夜の月


「うわっ、ちょ……っ!」

強風は一瞬だった。


風に解放されたのは、浮いた、とアスラが認識した一瞬の後。

「いいぞ」と言う声が聞こえて目を開けると、アスラの視界は目を閉じる前よりいくぶんか高くなっていた。


「なんだ、これ、……馬?」

アスラはいつのまにか馬に乗っていた。


きょとんとした顔で、そっと馬の首を撫でる。

――その、驚くほどつややかな毛並み。


黒曜石のよう、と言われるアスラの黒髪よりも、ずっとずっと深い、闇色の毛並みを持つ馬。

この世のものと思えない美しいその馬に、アスラはおそるおそる声をかけた。


「イフリート、なのか……?」