――最初から、あの男は追いかけてきてなどいなかった。 それを必死になって逃げて――第一王女が聞いて呆れる。 (……何をビビってるんだ、あたしは) 一人で王宮の外へ出て、街のことなど何もわからなくて。 王宮の者にも、街の民にも、誰にも身分を知られてはいけなくて。 それが、自分でも情けないほど怖い。 はあ、と、大きなため息を一つして、アスラは顔を上げた。 怯えてばかりもいられない。――急いで薬を手に入れないと。 よし、と、口の中で呟き、気を取り直して歩き出そうとした矢先。