「あのとき姐さんに止めてもらったこと、感謝してんだ」


「え……」



見開いたアスラの目に映るシンヤは、マルダの消えた方角をじっと見つめている。


その横顔がハッとするほど大人びて見えた。



「生きててよかったって思ってるんだ。だから、似たような奴は放っておけないんだよ」



生きててよかった。



その言葉が、じんわりと熱を持ってアスラの鼓膜を揺らす。


鼻の奥がツンと痛んだ。



「……そうか。なら、おまえに頼む」



声が震えるのを気力で抑え、シンヤに言う。



「明日、水晶窟に行ってみようと思う。そのときにはイフリートに呼び戻しに行ってもらうから、それまで頼んだ」



「おう! まかせろ」



明るい笑みを見せて、シンヤは駆けていく。


その笑みを宝箱にしまうようにそっと瞳を閉じて、アスラは従者の名を呼んだ。



「イフリート」