マルダは数秒の間、何を言われたのかわからないというふうに目を瞬かせた。
その幼い顔がみるみる朱に染まるのを、アスラはただ見ていた。
「……なん、で」
つぶやくようなその言葉に、「ごめんな」と、アスラは馬鹿の一つ覚えのように繰り返した。
「あたしは、あたしの従者に人殺しを命じることはできない」
アスラが命じれば、イフリートは何だろうと殺すだろう。
――だからこそ絶対に、そんな命令を下したくない。
「でも! もしたしたらそこの兄ちゃんなら、魔人に勝てるかもしれないのに……。力も貸してくれないのかよ!」
「仇打ちには、力を貸してやれない。ごめんな」
喚き立てるマルダの声に、他の客の訝しげな視線が集まる。
それでもうろたえもせずに、ただ頭を下げるアスラを、マルダは涙の溜まった瞳で睨みつけた。
「……くそったれ!」
力任せに机の脚を蹴って、マルダは店を出て行った。
めちゃくちゃに腕を振って走り去っていく後ろ姿を見つめながら、アスラは「イフリート」と、小さく従者の名を呼ぶ。



