「姫が宿を出たみたいだ。追うよ、リッカ。万一にでもあのひとを見失うわけにはいかないからね。

まぁ、君のくれたこの目があれば、そんなことにはならないだろうけど」


「……はい」


短く返して、リッカは歩き出したキアンの後を追いかけた。


店主の「いってらっしゃい」の声を背に宿を出て、キアンの隣にリッカは並んだ。



「ひとつ、訂正します」



何だい? と、キアンは自分を見上げるリッカの瞳を見た。


まだ十歳にもならないような幼い少女の姿をしているのに、その瞳がたたえているのは、まるで何千年も生きた大樹のような静謐。



「わたしの身の内にあるのは魔に違いありませんが、姫の身の内に潜むものは違います」



キアンから目をそらして前を向いたリッカの、死人のように白い横顔に、感情は見えない。

色の薄い小さな唇がただ淡々と告げた。



「あれは、神の力です」