*第二夜 10*


まだ朝もやの晴れない早朝。

アスラとイフリートは、〈イウサール〉のアジトの前に立っていた。


「それじゃあ、元気でな」


アスラはかすかに笑って、目の前の少年――ハイサムに言った。


「本当にこのまま行っちまうのかよ」


たいして寂しいとも思っていなそうな顔で、ハイサムは言う。


「皆に別れは言わなくてよかったのか? 特にほら、シンヤなんか、けっこう仲良かったろ」


「いいんだ。もともとこの町に長居するつもりもなかったし、顔を広めるつもりもなかったから」


「ふぅん」


「ただ、もうしばらくはあたしの名前を〈イウサール〉の頭領として使ってほしい。そうだな……今回の騒ぎのほとぼりが冷めるまでは」


いいか? と、首を傾げたアスラに、ハイサムは理由も訊かずにあっさり頷いた。