あの娼婦はナラーという名だったのか、とアスラが思っていると、扉が静かに開いて、中から男が現れた。

――領主だ。


丸々と肥えた中年の男だ。

豊かに蓄えられたひげはむさ苦しく顔にまとわりつき、動きは牛のように鈍い。


「よく来た。さあ、中へ」


これほど醜い男を相手にしなければならないとは、娼婦も大変だな。

そんなことを考えながら、領主の招きに従い寝室へ入る。

そのアスラの足元を、黒いネズミが素早く走っていった。


「お初にお目にかかります、領主さま」


領主が扉を閉めるなり、アスラはフードをはずして領主の足元に膝をついた。


「ナラー様がお体の調子が優れないとのことでしたので、代わりにこのミナが参りました。領主さまさえよろしければ、今夜はわたくしとお過ごしくださいませ」


言って、アスラは柔らかい笑みを作って領主を見上げた。


領主ははじめはきょとんとした顔をしていたが、アスラの言葉を聞くとのんきにも「そうかそうか!」と笑った。