「じゃあな、金持ちの姉ちゃん。しばらくこの街にいるなら、スリには気をつけろよ」


自分もスリのくせにシンヤはそう言って、来た道を戻っていく。

その細い背に、アスラは思わず「シンヤ」と、声をかける。


「ん?」


振り返って首をかしげたシンヤに、アスラは何も言わない。

呼び止めたはいいが、とっさにそうしてしまったというだけで、用があるわけではなかった。


「えっと……気をつけて帰れよ」


しばらく悩んでからそう言ったアスラに、シンヤは「おう!」と力強く笑って、今度こそ去っていく。


「なあ、イフリート」


シンヤが去った後の夜道をぼんやり眺めながら、アスラが言った。


「彼らは、強いな」


「……そうだな」


長いまつげを伏せて、イフリートがかすかに頷く気配。

アスラは薄く笑うと、無口な従者を連れて宿に入っていった。