アルマクと幻夜の月



だが、アスラは偽の名を名乗るつもりはなかった。

王宮を出たときから、それは決めていた。


「アスラだ」と、正直に答える。

姓さえ名乗らなければ、誰もアスラ王女だとは思うまい。

アスラという名の女は、この国では珍しくないのだ。


そう思っていたのだが。


「やっぱり、アスラ王女殿下だったのか」


男の言葉に、アスラは再びうんざりしたような顔をする。

そして、否定しようと口を開いた、そのとき。


男がアスラの手を取って――その手の甲にそっと口付けた。


「あ、え…………はぁっ!?」


アスラの口から否定の言葉ではなく、頓狂な声が漏れた。

その顔がみるみる赤くなる。