「そう、なの。圭太くんと付き合うことにしたの」


あたしは石丸くんに向かってそう言って、微笑んでいた。


もう何だっていい。

どうせ昨日色々あったせいで、良いようには思われてないんだから。

だったら、少しでも彼の頭の中に残りたい。


心には届かなくても、頭の中に。

あたしの存在、忘れないで欲しいから。

だから……。



「朝日ー!!」

石丸くんの後ろからパタパタと、誰かが駆け寄ってくるのが見えた。

誰か……と言っても、その『朝日』という呼び方と、耳につく甘ったるい声色で、誰なのかはすぐに分かった。


彼女、だ。

石丸くんの彼女の……大西さん。


「あ……」

あたし達の目の前までやって来た彼女は、あたしの姿を見て小さく口を開けた。


カップル揃って同じ反応。

いるはずのない人間がいるのだから当たり前だけど、何だか苛立つ。


見れば見るほど、大西さんは普通の子。

石丸くんはどうしてこんな人がいいんだろう。


そんな黒い感情を押し込めて、


「こんにちは」


あたしは彼女に笑顔で挨拶をした。