昨日のこと、別にあたしが頼んだことなんてひとつもないのだけど……やっぱり、ひと言お礼くらい言っておくべきなんじゃないかと思った。
だから……。
「なに?」
じっと圭太くんを見つめる。
だけど、あたしのその顔はきっと睨みつけるようにキツイものだと思う。
だって、やっぱり嫌。
あんな風に笑われたら、素直に『昨日はありがとう』なんて、とても言えなくなる。
でも、言わなかったら何をしにここまで来たのか分からない。
言う、言わない。
その二択で迷っていると……。
「……あ」
圭太くんの瞳が誰かを捕えて、目を少し大きく見開いた。
ドキッと強く打つ鼓動。
視線を追うように振り返ってみれば、そこには予想通りの人がいた。
「蜂谷……」
あたしの名前を呼んで、呆然と立ち尽くす人は――石丸くん。
昨日の今日で。
分かってはいたけど、『何で』と言わんばかりに戸惑った表情を浮かべる姿に、胸の奥がズキンと痛む。
「えっと、あの……」
しどろもどろになりながら、何か言葉をと思考を巡らせていた次の瞬間――。



