ハチミツみたいな恋じゃなくても。


何だかんだ言いながらも、参加するのを選んだのはあたし。

だから突然こうして逃げ出してきて、少なからず罪悪感は感じてる。

でも、それよりも……


あの場所に居続けることの方が、怖かった。


だって、たぶん聞いてた。

あのままあそこに居たら、彼のこと『知ってる?』って――。


……うん、ダメダメ、そんなの。

過去のことはもう気にしないって決めたんだから。

諦めるって、一度決めたんだから。



瞳には後から謝ろう。

そう思い直して、震えるケータイを無視して歩き出す。


とはいえ、せっかく駅前に来たんだし、少し寄り道でもして帰ろうかと、近場の本屋へ脚を向けようとした時だった。


ふと、目についた人。


すらっと高い背に、長くも短くもない黒い髪。

女子校通いのあたしにはあまり見慣れない、ブレザーを着た男子の後ろ姿。


「……」


全然知らない人のはずなのに、あたしの体は固まっていた。