ハチミツみたいな恋じゃなくても。


じっと見つめられていたのは、もしかして涙の跡を確認していたの?

考えていると、圭太くんは立ち上がり、


「いい加減俺も腹減ったし」

言いながら、くわー……っと大欠伸。


「……」

寂しそうに見えたのは、どうやらあたしの気のせいだったようだ。

それに、『ちゃんとした彼女作った方がいいよ』と言った言葉については、はぐらかされたみたい。

もういいやと思いながら、あたしも立ち上がる。


「蜂谷の家どこだっけ?送るけど」

「別にいいよ。お腹空いてるんでしょ?」

「まぁ誰かのせいで腹は減ったけど、さすがにこの時間にひとりで帰させるわけにはいかないじゃん」

「はぁ」

誰も待ってくれなんて言ってないのだけど。

あたしのせいで遅くなったみたいな言い方に、口をへの字に曲げる。

すると、


「とにかく送らせてよ。じゃないと俺が朝日に怒られるから」

「え?」

「頼まれたんだよ。家まで送ってやってって」

「……」


思いがけない気配りに、胸がぎゅっと締め付けられた。


そうだ、石丸くんはそういう人だった。

でも、そんな優しさ……いらないのに。


残された気持ちがただただ切なくて、小さく苦笑する。


自分のことに精一杯で、そんなあたしを見つめる圭太くんの寂しげな表情に、あたしは気付かなかった。