ハチミツみたいな恋じゃなくても。



「ひっ……!」

はっきりした悲鳴さえ上げられなかった。


こっちに向かって走り出した男。

あたしは逃げる余裕もなく、ぎゅっと目を瞑る。

そして――。



「っ……」


すぐそこまで近付いた足音と気配。

だけど、あたしの身体は痛みも何も感じない。


あ、あれ……?


恐る恐る、そーっと目を開いた。

すると、目の前には真っ白なシャツの背中。


え……。


あたしが目を見開くと、ボスッと音を立ててスポーツバッグが落ちた。

それから、


「うっ……」

痛みに歪んだ声と、


ポタッ、ポタッ……と、地面に落ちる真っ赤な雫。



……ま、待って。

状況が上手く飲み込めない。


白い背中の向こう側では、あの男が青い顔をして後ずさっている。

その震える手には、サバイバルナイフ。

真っ赤に染まった刃先。


……と、いうことは。


腕を押さえ、背中を丸めるこの人は――。