ハチミツみたいな恋じゃなくても。



「……どういうこと? 花音ちゃん」


静かな住宅街に響く声。

低く暗いその声の主は、見覚えのある人。


「あ、なた……」

ゾクッと背筋が凍りつき、声が震える。


「知り合い?」

「知らないっ!」

短く聞いてきた圭太くんに、あたしはぶんぶんと首を横に振った。


知らない、全く知らない人。
どうしてあたしの名前を知っているのかさえ、わからない。

だけど、見覚えはあった。
……と、いうよりも忘れられない。


だって目の前のその人は、

大西さんと待ち合わせをしているときに声をかけてきた、あの男――。



「知らないなんて酷いなぁ」


ニヤッと笑って、男は一歩近付く。


「僕もその男のこと知らないよ? 昨日の晩帰らずに、何やってたの?」

また一歩、近付く。


「その男と一緒だったの?」


そう問いかけてきた、次の瞬間。

男はズボンのポケットから何かを取り出した。


カシャンと音がして、見えた銀色。

それは、ナイフ――。