自分が自分じゃないみたいで嫌だ。
でも……と、顔の位置を戻そうとすると、
「蜂谷こそ、何でわざわざ来てくれたわけ?」
圭太くんの声が先に耳に届いた。
「それは……」
あたしはゆっくりと顔を戻す。
すると、ぶつかる視線と視線。
あたしがここに来た理由、それは……。
ヴー、ヴー、ヴー。
「っ……!」
静かな空間に、突如鳴り響いたケータイのバイブレーション。
ビクッとすると、圭太くんはズボンのポケットからスマホを取り出して。
「ちょっとごめん」
ひと言あたしに謝ると、鳴り続ける電話に出た。
「もしもし。…………え、あ、マジで?」
誰かと会話する圭太くん。
参ったなとばかりに頭を掻く仕草から、何かあったのかなと思う。
それにしても……。
ドキドキと強く脈打つ鼓動。
電話がかかってきて助かったような、タイミングを逃したような……。
何とも言えない気持ちになっていると、
「……わかったよ。じゃあ、今から行くから」
そう言って、圭太くんは電話を切った。



