ハチミツみたいな恋じゃなくても。


「ちょっと詳しく!詳しく聞かせてよ!」

「……やだ」

やっと冷静になったあたしは、落ちた教科書を拾い上げる。

「なんでよー!」と、声を大きくする瞳に、


「とにかく、瞳が思ってるような感じじゃないの。それに今日は……」

「今日は?」

「……何でもない」


言いかけて、やめた。

別に話してあげてもいいんだけど、こんなにからかわれておいて、ここで喋ってしまうのは癪だ。


「えー!気になる!教えてよー」

「いーや」

身を乗り出して聞いてくる瞳。

あたしは鞄の口を閉じて、仕返しとばかりにあっかんべした。


「じゃあまた明日」

にっこりと笑顔を作って手を振ると、瞳は悔しそうに唇を尖らせる……けど、


「花音」

教室を出ようとするあたしを呼び止めて、


「前よりずっと明るい顔してるよ」


「行ってらっしゃい」と、笑顔で手を振られた。