「すみれってさ、ヨーロッパでは恋の花っていうんだって」
圭太くんの指先が、あたしの頰に触れる。
「中学の頃からずっと思ってた。俺のものになればいいのに……って」
「……」
何言ってんのって突き飛ばしたいのに、顔も逸らせない。
それどころか近付きすぎた距離に、呼吸の仕方さえわからなくなる。
触れられた頰があつい。
初めて見る圭太くんの表情に、動けない。
まるでこわれものを扱うような、そんな優しく切ない瞳で見つめないで。
あたし、あたしは――。
何を言えばいいのかわからない。だけど、何でもいいから口を開こうとしたときだった。
「一緒にいれるだけでいいとか言ったけど、やっぱプレゼントちょうだい」
「え……」
何を?って返す暇もなかった。
急に暗くなった目の前。
開きかけた唇を、やわらかい感触が塞いだ。
時間にしたら、きっと数秒。
だけどあたしには、まるで時が止められたかのように感じた。
今、自分に起こっていることの意味が……わからなかった。



