「待ってよ」
あたしは腕を掴まれ、圭太くんに呼び止められた。
「彼氏が来たのにシカトするとか酷いじゃん」
圭太くんの発言に、「やっぱり蜂谷さんかー」とか、「蜂谷さん相手じゃ敵わないよ」とかいう悲鳴にも似た声が周りから上がる。
「か、彼氏って!」
「彼氏でしょ?」
「っ……」
掴まれた腕にグッと力が込められ、口ごもる。
圭太くんの言っていることは、確かに間違っているわけじゃない。でも……。
「ちゃんと話、したくて来たんだけど」
どうしたらいいかわからず突っ立ったままのあたしに、いつになく真面目な顔をして圭太くんが言った。
いつもヘラヘラ、本心の掴めない顔ばかりしてるくせに、こういうときだけずるい。
そんな顔されたら、嫌だなんて言えなくなる。
チラッと瞳の顔を見てみれば、こくんと静かに頷かれた。
あー……もう本当に、あたしに逃げ場はどこにもないみたい。
「……わかったよ」
観念して返事をすると、掴まれた腕はするりと離されて。
圭太くんはほんの少し、ホッとしたように微笑んだ。



