冷凍保存愛


「無事?」

 道子は反射的に聞き返していた。

「何か怪我をさせられたりしたのかい? ここまでたどり着くのに結構時間がかかってしまったから」

 言いながら小田原は二人に近づいてくる。その顔はいつも学校で見るやさしい顔で、心配するような顔だった。

 道子と強羅は壁に背中をべったりと張り付かせたまま動けないでいた。目の前にせまる小田原のことを信じていいのか、それともどうにか逃げ切ったほうがいいのか考えていた。

「さ、早くここから出よう」
「ここから?」
「そうだ。山際君、君には申し訳ないことをしたね。わざわざここまで来させてしまったんだから」
「ここまでって、ここ、先生の家ですよね」
「一応そういうことにはなっているが、本当の家はまた別にある」
「どういうことですか」
「ここで話している時間は無い。とにかくここから出るのが先だ。さあ」

 差し出された両手をつかむべきか迷った。

「早く。ここから出ないとまたあいつが来る」
「あいつ?」
「そうだ。山際君、さあ」

 小田原の両手は白くて細くて力なく頼りがいのないものだった。

「さあ!」

 小田原は二人の腕を信じられない強さの力でつかみ、ふらつく二人を無理やり立ち上がらせた。

 つまづく二人を強引に引き擦りながら、今入ってきたドアから外に出て階段を上がった。

 さきほどいたリビングがそこにはあって、誰も入ってきていないように静まり返っていた。