「羽都音は?」
「羽都音はここにはいないよ。私だけ」
「まじか。てか俺らも探しだしたんだよ。道子ちゃんと連絡取れなくなってからいろいろ考えて、小田原のうちまではたどり着いたんだ。でも、そこまで。で……」
「待って。ってことは校長室の話、羽都音が話したの?」
「そう」
「じゃ、羽都音もここに来てるのね?」
「それが……」
コーヅって名前の他の学校の奴と俺とでここへ来て、羽都音はうちで留守番をしてもらってたんだけど、
学校でアレを、小田原の名前の入ったファイルを発見して急いで電話をしたがぜんぜん出ないことを早口にまくしたてた。
その頭の片隅で、今頃コーヅはこの家のどこかで俺のことを探しているはずだと信じていた。
「そのコーヅ君とやらはどこにいるわけ?」
「たぶんまだこの家の中のどこか」
「なにそれ。なんで彼はここに一緒に連れてこられなかったの?」
「そ、それは……」
「てことは、今ここに閉じ込められているのは私と強羅君だけで、羽都音はどこにいるか分からない。もしかしたらここに来ているかもしれないし、どこか違うところにいるのかもしれない。で、コーヅ君ってのはきっと私たちのことを探している」
「そう信じたい。で、小田原っていったい何者なんだよ。一年の任期で学校変わってるし、あいつがいた学校の生徒が消えてるってのもこえーよ」
「びっくりよ。てかよくそこまで調べたね。でも私だって寝ずに調べ上げたんだから」
道子は得意げに鼻で笑い、
「あいつ、教師の仮面をかぶった悪魔よ」
咳払いを一つ、唾を飲み、
「あいつね、自分の好みの生徒を見つけては拉致監禁してたってわけ」
「は?! 本気かよそれ」
「でしょ」
「それ、間違いねえのか」
「無いわよ。私をダレだと思ってるの。過去の新聞からあいつが赴任していた学校にいた生徒から、その教師仲間から話を聞いて歩いた」
「君ってほんと高校生とは思えないときあるよね」
「ありがとう。誉め言葉だと受けとるね」
遠くの方でガチャガチャと音が聞こえ、強羅と道子は息を飲み、神経を音のする方へ集中させた。
壁に背をべったりつけ、擦り寄るように壁づたいに距離をつめると、指がぶつかって小さく声をあげた。
「道子ちゃん?」
「強羅くん?」
二人は手を握り合うと肩をぶつけるように近づき、鍵を開けるカチャカチャという音に神経を集中させた。

