暗くなり始める森。
最近は日が長くなったから街の宿屋に辿り着けると思ったのに…。自然とため息がこぼれた。
「今日は野宿だな。」
隣でそう言ってきたのは一緒に旅をする青年。名前はよく知らないから、適当にウルフさんと呼んでいる。何故ってそれは私がこの人と旅を始めた初日に狼に襲われたから。バッタバッタと野生の狼をお得意の魔術でなぎ倒していく様が一番印象的だったんだ。
まぁ、それは置いといて……
「まぁた野宿ぅ?」
語尾のトーンが高くなってしまった。
だって嫌だもん、野宿。
上から蜘蛛とか降ってくるんだよ!?下には蟻とか謎の虫型魔物とかいるんだよ!?
「仕方ないだろう。街までは十キロ以上の距離がある、夜中移動するのは無理だ」
簡潔に私の僅かな希望を砕いたウルフさんを睨む。
「それじゃ、野宿の準備しろ。」
「……野宿、野宿…」
「嫌がっても現実は変わらないぞ。そこら辺から薪、探してくる」
別に野宿って言っても別段準備することなんかないんだけどね。私は比較的虫がいなさそうな木の下に荷物を置いた。一応、夕食は昼過ぎに通った川で魚を釣って食べたけど…お腹すいた。
でも、非常食は本当にピンチになった時の為にとっておかなきゃいけないし。
我慢よ。我慢するのよ私!!
「そうだ!別の事を考えよう!」
お腹すいたって考えてるからお腹がすいてくるんだよ、きっとそう。
…そうだなぁ…
私、こんなふうに旅をしていてもいいのかな? だって本来なら私、あの疫病に侵された街で死ぬはずだったんだよね。何故か私は疫病にかからず一人ぼっちになって途方にくれている所をウルフさんに拾われたわけで、何で私だけが病気にかからなかったんだろ?
あ、それに流れでウルフさんって呼んじゃってるけどあの人の本当の名前知らないし!
…そう言えば…何でウルフさんはあの街に来たんだろう…きっと噂で、疫病の事は聞いていたはずなのに。
「うーん……ただの命知らずか、勇者か」
「誰のことだ?」
「ぅんぎゃあ!?」
突然後ろから声が聞こえてきて変な声がでてしまった。レイラ・クロッシュ一生の恥。
「…ウルフさんですか!びっくりしたー」
心臓飛び出るか思った。
私が驚きで死にそうになっている間にウルフさんはさっさと薪に火を付け終わっていた。
ぼんやりとしたオレンジ色の光が辺りを明るく照らし出す。…私、こんなに暗いところで考え事してたんだ…
「明日には街に着くといいな…」
黙って頷いたウルフさん。
「…まだ、聞いてないんですけどウルフさんの本名教えてくださいよ」
私が一番聞きたかった質問だ。
「…………真の名前はある場所に置いてきた
だから好きなように呼んで良い。それと敬語はやめてくれ」
この人、中二病なのかなって一瞬思ったけどウルフさんの顔を見る限り嘘じゃ無さそう。
じっとウルフさんを見る。
ウルフさんって多分イケメンの部類に入ると思う。薪の炎に照らされる銀髪が色白の肌に影を落としていて、人には珍しい赤と青のオッドアイに映る炎の光が幻想的で…
「俺の顔に何か付いてるか?」
声をかけられてはっとした。
「い、いや何でも?」
ウルフさんの顔には右目を通るように長い傷がある。大体頬から額まで位。なんか勿体ない気がするのは私だけかな。
「ふぅん………何か変なこと考えてただろ」
ウルフさんの意地悪そうな顔が私を見た。
「何も考えてません!!」
ウルフさんがこの顔をしたら私が口で勝てるはずがない。愛用のリュックから毛布を引っ張り出して頭からかぶった。
「おやすみなさい!」
「ああ、おやすみ」
私が勢いよく言うと笑いを堪えながらウルフさんも返してくれた。