清掃時間が終わり、教室に戻った遥は机から筆箱を取り出した。
「しーみずくーん」
「うわっ」
妙な調子をつけられて名を呼ばれた。
振り向く間もなく、誰かに背中にとびつかれる。
いきなりのことで遥はたたらを踏んだが、どうにか踏みとどまり、お返しに背中へ手を伸ばしてとびついてきたやつの顔を捕まえた。
そのまま、ぐっと押す。
ぎゃあっ、と、遥の腰に腕を回していた秋山が悲鳴をあげた。
「いだだだだだだだ!は、鼻がもげる……」
「勝手にもげてろ、バカ秋山」
「んもう、遥ちゃんったら、乱暴者なんだから」
手を放してやると、秋山が赤くなった鼻を両手で押さえて腰をくねらす。
同じ野球部の秋山は時々、ふざけてこうした態度になる。
遥は眉をひそめ、おおげさにため息をついた。
「悪かったな、おれの背中は男にとびつかれるのが嫌いなんだよ」
「けっ、よく言う。しょっちゅう先輩同輩後輩カンケーなく抱きつかれてるくせに」
「安心しろ、アキだけお断りだ」
「うわ、うわ、ひっでえ、そりゃ差別だぞ。
おい、今の聞いたかリョウ。
お前だけ抱きついたらだめだってさ、怒れ」


