ボールをただ、的に向かって投げる。


外れれば悔しいし、命中すればなんだか勝った気がする。


勝敗も何もない、ただ、投げるだけ。


どれくらい繰り返していただろう。


帽子を脱ぎ、切れてきた息を整えようとふと空を見上げた時、空から藍色はほとんどなくなっていた。


夜の気配は西の隅に追いやられ、東の空は真っ白に染まっている。


薄暗い公園で練習に夢中になると、たまに朝の足音に気づくのが遅くなる時があった。


遥は石段を見た。


木が生えていないそこからは、朝日を浴び始めた街並みが望める。


建物が、地面が、陰にならないところすべてが、明るい日差しを跳ね返して金色に輝く。



似ているな。


グラウンドを思い出す。


野球でも、サッカーでも、陸上でも、ハンドボールでも。


スポーツを行っているグラウンドは輝いて目に映る。


その景色によく似ている。



昼からの練習、外側からグラウンドを眺める人たちにも、このように感じるのだろうか。


遥は帽子を空に放った。


再び、ボードのオレンジ色に向き直る。


両腕をゆっくり持ち上げ、左足を上げ、右腕を後ろに振った。



来いよ、駿。



左足を力いっぱい踏み出す。



来いよ、駿。


あの石段を駆け上がって来い。


試合とか、あの5番とか、リードミスとか、そんなのどうだっていい。


おれの前に座って、ミットを構えろよ。



『秘密の特訓』、やるぞ。



ボードの目印に重なり、あの見慣れたキャッチャーミットが浮かぶ。



そこに向かって、遥は全力投球した。










―終―