そこで会話が途切れてしまった。
妙な間が耳に刺さって苦しい。
電話を切られてしまうかと遥は焦ったが、そのような音も気配もしなかった。
待ってくれているのか、切りたくても切れない雰囲気で戸惑っているのか。
遥は息を吸った。
まだ、肝心の用件をしゃべっていない。
いつでも、引っ張ってくれたのは駿だった。
今度はおれが引っ張る番だ。
「明日」
少し大きな声が出てしまった。
電話の向こうで「うおっ」と駿が驚いている。
「ビクッた……え、明日?」
「秘密の特訓。
テスト終わったし、おれ、やってるから。
夏の大会でなげるつもりだから」
お前も来いよ。
言いかけた言葉を呑み込む。
無理矢理言ったら意味が無いんだ。
あいつが自分から、『行きたい』って、『野球がしたい』って思ってくれないと。
遥は鼻をすすった。
しょぼい声を出さないように意識する。
「うん、そんだけ。悪かったな、急に電話なんかして」
「いや、全然。……おれの方こそ」
謝んなよ、バカ。
「じゃあな」
「あっ、遥……」
耳から離し、電話を切る。
ついでに電源もオフにしてやった。
だいぶ回りくどい言い方になってしまった。
でも、あいつにはきっと伝わったと思う。
携帯電話を机に放り投げておく。
遥はしばらくベッドにもたれかかって、下についている収納棚を開けた。
グローブオイルやレザーオイルを入れた籠を取り出し、泥落としを済ませてあるグラブを腿に置く。
あいつ、明日来るかな。
来てくれるよな……
首を振り、ぱちんと両頬を叩く。
変な心配を頭から追い払って、遥はグラブを磨き始めた。


