身体の奥で、熱いものが渦巻く。


遥はベッドから跳ね起き、廊下に出た。


リビングに向かい、冷蔵庫のマグネットのフックにぶら下げておいた携帯電話を掴む。


就寝準備をしていた母が目を丸くした。



「遥、どうしたの」


「ちょっと駿に電話するから」



遊んじょしよー、という声を背中で聞いて、遥は部屋にかえった。


電話帳を開き、『川口駿』の名前を探す。


呼び出す無機質な音が、耳の奥を突いてくる。



いいのかよ、駿。


お前、おれより長く野球やってたじゃないか。


どうして逃げるんだよ。


負けたら次に勝てばいいって、お前、口癖のように言ってたじゃないか。



呼び出し音はまだ続く。


そこに秋山の言葉が重なる。



『今日来なかったらもう来ねえよ』



秋山のやつ、決めつけやがって。


これで本当に来なかったら言われっぱなしだぞ。


悔しくないのかよ。



コールはまだ途切れない。


遥はそれに苛立っていたが、無表情な音を長く聞いていると、冷静さが戻ってきた。


何を伝えるつもりなんだ、おれは。


思わず電話を掛けたが、何をしゃべろうか、頭の中で形になっていない。


練習に来なかったことを怒るつもりはないし、秋山たちとのやり取りを教えるつもりもない。



じゃあ、おれはどうするつもりで、携帯電話を掴んだんだ?


行き当たりばったりすぎる自分の行動に慌てた。


でも、切るつもりはない。


切ってやるもんか。



遥が携帯電話を握り直したとき、呼び出し音がふつりと途切れた。