少しでも野球がうまくなりたくて、あの頃は『やれば上達する』という方法は何でもやった。
賭け事なんかをからめて勝負したことも何度もある。
このボールの投げ上げもだ。
今ではすっかり、感覚が腕に染みついている。
勝ったのはどっちだったっけ……
右手からボールがすり抜ける。
額に衝撃が走った。
捕り損ねたのだ。
軟球とはいえ、ぶつかると鈍い痛みが生まれる。
「いってえ……」
遥は指先で額をさすった。
ベッドからボールが落ち、部屋を転がっていき、棚の足に当たって止まった。
寝返りを打ち、遥は白球を見つめる。
駿とバッテリーを組んで、初めて出た試合で使ったボールだ。
『おまえのウイニングボールだよ』
そう言って、駿がグラブに押し込んでくれた。
そうだ。このボールから、あいつとのバッテリーは始まったんだ。
5年生の時からずっと、お互いを信じてボール投げあった。
初めて敗北を喫したのは、中学2年での練習試合。
悔しくてたまらなくて、帰りながら泣いた。
『秘密の特訓、やろうぜ』
その夜に、駿から電話が掛かってきた。
秘密の特訓はあの試合当日まで、テスト週間や受験シーズンを除いて続けた。
「……野球、上手くなったのかな、おれ」
声に出して呟いてみる。


