ストライクゾーンを大きく上に外れたボールが、揺れたミットのふちを弾き、駿の顔面にぶつかった。
勢いでキャッチャーマスクが宙を舞う。
あれがなかったら大事になっていただろう。
会場全体の空気が凍りつくのを感じた。
それは一瞬のことで、すぐに歓声とは異なるざわめきが広がる。
主審が指示をだし、ダッグアウトから監督とマネージャーが飛び出してきた。
救急箱を抱えた係員も駆け寄る。
駿は眉間にしわを深く刻んで鼻を押さえていた。
指の間から真っ赤な血が流れ出て、ぽたぽたと地面にしみをつくる。
遥はだらりと両腕をぶら下げ、駿が運ばれていく様子を呆然と見つめていた。
頭の奥がしびれて、思考回路が働かない。
バッターボックスを離れた5番が、軽く素振りをしてこちらに目を向けた。
無表情のままだった。
対峙していたときと同様に、ただ遥を見ていた。
「清水、下がれ。交替だ」
後ろから神崎に肩を叩かれた。
ブルペンで投球練習をしていた豊岡が、マウンドに走ってくる。
本塁には後藤がいた。
「清水」
「せ、んぱい。おれ……」
「安心しろ、あとは先輩に任せとけ」
そのあとのことは、よく覚えていない。
豊岡に頭を下げてベンチに戻り、うす暗いダッグアウトの奥から、まぶしく光るグラウンドを見た。
いや、記憶に残っていないから顔だけ向けていたのかもしれない。
向けたまま、隣で真っ赤に染まったティッシュを鼻に押し付ける駿に「ごめん」と謝った。
駿からは何も返事はなかった。
それ以来、あいつとは会話をしていない。
豊岡たちは、滅多打ちにされる事態をどうにか避けた。
それでも点差は最終回まで縮まらなかった。
そのまま試合は終了。
インターハイ県予選は、3回戦で敗退した。


