3回のタイムはもう使い切ってしまった。


駿をマウンドへ呼ぶことはできない。


問うことも言葉をかけることもだ。



どうすればいい。


このままでは、バッテリーごと崩れてしまう。



吐き気がする熱気に包まれながら、遥は必死に目をこらした。


バッターボックスには、あいつが立っている。


目が合った。


この暑さとは対極なくらい、冷たい瞳だ。


敵だからそう見えるのかもしれない。


相手チームのピッチャー、5番の選手は、マウンドに立ち尽くす遥を見ていた。


困惑することも嘲笑することもなく、ただ見ているだけだった。


熱い空気をすいこみ、遥はロージンバックを右手の上で跳ねさせた。


ふわりと白い粉を吐き出すそれをマウンドに落として、帽子をかぶり直す。


束の間目を閉じて、ひりつく焦りをどうにか落ち着かせた。


駿が新しく替えてから4年間、ずっと向き合ってきたミットを見つめる。


あそこに投げ込めばいい。


サインが無いのなら、あいつが構えているあの位置へ、ボールを投げればいいんだ。


遥は息を吐き、投手板を利き足で踏んだ。