途方に暮れる。
その言葉がぴったり当てはまる状態だった。
唇だけ動かして名前を呼んでも、ふるっとミットが揺れるだけで、戸惑いばかりが生じた。
怖かった。
どうしていいかまったく分からなくて、それがたまらなく怖かった。
駿、どこへ投げればいいんだ。サインを送ってくれ。
いや、サインはどうでもいい。
ミットを構えて、おれを、ピッチャーをちゃんと見てくれ。
必死に眼差しを送ったが、肝心の駿の表情はキャッチャーマスクに隠れて見えない。
そんなことは露知らず、バッターは地面をならしていた。
焦りが出てくる。
投げられない。
でも、ここでしゃがみ込むわけにはいかない。
遥は息を吐き、大丈夫だと自分に言った。
大丈夫だ、後ろには先輩たちがいる。
絶対に守ってくれる。
だから、信じて投げろ。
変わらず、駿の構えにはっきりとした意識は感じられなかった。
でも、投げるしかない。
駿なら捕ってくれる、絶対に捕まえてくれる。
呼吸を整え、遥は両腕をゆっくり後ろに振った。
オーバースローのフォームに入り、左足を上げ、強く踏み出した。
駿のミットだけを見つめて、身体全部の力を込めて、腕を振り上げる。
あっ。
遥の心臓が、いやな鼓動を打った。
一瞬だけ、駿のミットが揺れたのだ。
追い詰められた自身をかろうじて支えていた何かが、くらりと傾いた。
5番が上半身をそらす。


