遥は何も答えられなかった。


首を動かすこともせず、闇に沈んだ足元を見つめる。


4人から視線を感じる。


だから余計に、顔を上げられなかった。


チリリン。


自転車のベルが鳴る。


両国ではない。


遥たちが歩いてきた方向から、自転車に乗った警察官がこちらに寄ってきた。



「おーい、高校生かー?寄り道しないで早く帰るんだぞー」


「はい、すいません」



わざわざスタンドを立てて、両国が頭を下げる。


警察官は5人の顔を一通り見て、商店街の方へ自転車を進めていった。


ケンカをしていると思われたのだろうか。


秋山が「はあっ」と力の抜けた声を出した。



「ここでたむろってると、不良高校生扱いされるな。


清水がどう思ってんのか知らねえけど、このまま川口が練習に来なかったら、おれがキャッチャーをやる。


監督には明日の練習で、それを言うつもりだよ。


バッテリーがぐだぐだしているせいでチームの空気が悪くなるのって、なんかダサいし」


「アキ、川口が来ないって決めつけんな」


「は?バカじゃねえの。


今日来なかったらもう来ねえよ。


よっぽどがあっても戻ってこれねえかもな。


そういうもんだろ、逃げ出すってさ」



秋山が小倉の反論をばっさり切り捨てた。


遠藤が青ざめる。



「秋山、お前」


「じゃあ、また明日な」



小倉の声をすり抜けて、秋山が走り出す。


黒い制服と黒いエナメルバッグは、太い畔道に広がる闇にあっという間に溶け込む。


両国は束の間遥を見たが、ぼそりと「じゃあな」と言って自転車にまたがり、秋山を追いかけた。


電灯の切れた電柱の下に、3人だけが取り残される。



「おれも、帰る」



ずり落ちそうな鞄を肩にかけ直して、遥は小倉たちに背を向けた。


遠藤の焦った声がぶつかってくる。



「清水、本当にいいのかよ。


秋山なんかが、川口の代わりにキャッチャーやるって」


「……そんなの、どうしようもないだろ」



あいつが、グラウンドに来なければ。


本塁に座っておれにミットを構えてくれなければ、もうバッテリーではない。


ちっ。


遥は小さく舌打ちした。


誰かに対してのものではない。


無性にイライラしてむしゃくしゃする。


ムカつく。


胸中にそれを抱え、遥は商店街の明かりを睨みながら、地面を強く踏みしめた。