つられて溝口の口元が歪んだ。
笑いそうで、笑うまいと必死に耐えている。
監督が数回空咳をして秋山に向いた。
「秋山はどうだ。キャッチャー、やってみないか」
「いやです」
間髪入れず、秋山がそう答える。
遥は少々驚いた。
神崎も目を丸くして後輩を見ている。
意外だった。
秋山なら喜んで引き受けて、
「溝口、お前なんかにはまだ早い早い、次のキャッチャーはおれだ。
なっ、遥、今度からはおれとバッテリー組もうぜ」
とか言いそうなのに。
監督がくいっと片眉をあげた。
「ほう、どうしてだ」
「地味だからです」
またしても秋山が完結に答える。
理由を尋ねられると、腕を頭の後ろで組んで片足をぶらぶらさせた。
こういう無遠慮な態度を監督の前でできるのは、秋山くらいしかいない。
怖いもの知らずというか、アホというか、度胸のあるやつだ。
「だって、観客席にずっと背中向けてるじゃないですか。
それにマスクとかプロテクターとかレガースとか、むちゃくちゃ暑そうだし、全然顔が見えないもん。
監督、おれは守備をきれーいに抜けそうな球をサッと掬ってかっこよく送球して、ランナーをアウトにする内野がいいんです。
あっ、外野より内野ですよ。ココ重要ですから。
あんまスタンドから離れるとおれの顔がよく見えませんし。
うーん、でも、キャッチャーマスクを外して、スライディングしてきたランナーをアウトにするのもかっこいいかなあ。
テレビにもけっこう映るしなぁ……」


