金属音。
バッティング練習か、守備練習の音だ。
ざわ、と身体の中で渦が生まれる。
速く野球がしたい。
マウンドに立って、ボールを投げたい。
気持ちが昂るにつれ、上履きの鳴る音が大きくなっていく。
『遥、部活行くぞ』
どくん。
思わず足を止めた。
キッ、と高い悲鳴が足元で生まれ、一瞬だけ余韻を残して消える。
自分のクラスの隣。
その後ろの出入口から、遥は中をのぞいた。
やはりそこには誰もいない。
列を整えて並べられた机には荷物もない。
複数の机が、青空からの光を受けて白く反射している。
目をこらしてみたが、そこに駿の姿はなかった。
当然だ、部活はとっくに始まっている。
野球が大好きなあいつが、この時間に教室に残っているはずがない。
あの声は、遥の気の所為だった。
県予選、最後の試合が脳裏を掠め、遥は慌てて追い払った。
大丈夫だ。
駿なら先に行って、準備万端で相棒を待ってくれている。
そうして遅れてきた相棒に文句を言いながらも、楽しそうに笑ってボールを渡す。
グラウンドの横にあるブルペンで、あのきちんと磨きこんだミットを構えて、遥の球を受けてくれる。
いつだってそうだ。
今日もそうに決まっている。
テスト明け、予選が終わってからの初練習で、ウズウズしている。
何を心配しているんだよ、おれは。
後頭部を軽く殴って、遥は荷物を取りに戻った。
自分に言い聞かせていることを分かっている自身に、気づかないフリをして。


