「折った腕、感覚が少し変だし、天気とかで時々傷むらしい。小学生の時の怪我なのに。……バイクには乗らないって言ってる。免許も持ってない」

「……」

「俺は自分の過去を消したいよ。学校にもろくに行かないでバイクで走り回って、喧嘩ばっかりして、迷惑ばっかりかけて。あの頃はそれでも楽しかったんだ。それで良かった。学校サボって、自分でいじったバイクに乗って……刺青なんか彫って」

「い、刺青……?」

 ちょっと待って。
 あたしの声に振り向いた顔は、真剣な、ちょっと悲しそうな目をしていた。光太郎さんの手は、自分のポロシャツの裾を掴んでいて、胸までぐっと捲り上げた。

「……」

 右手で捲り上げたシャツから覗く、右脇腹から背中の方に巻き付く、赤い1匹の龍。

「分かったでしょ? バカやってたって。引いたっしょ」

 低い声で言って、ふっと自嘲気味に笑う。自分を笑ってる。

「そんなこと」

「俺は、こういう人間だ」

 別に偏見があるわけじゃない。急に見せられてびっくりしただけなの。違うの。

「俺なんか好きになったって、楽しくないぞ。一緒に居ても」

「そんな」

 シャツを戻して、光太郎さんは立ったまま、背を向けて玄関の方へ行く。このまま帰る気なの?

「待って」

 あたしは、座っていたベッドから立ち上がって、背中を追いかける。

「お疲れさま。……おやすみ」

 靴を履きながら玄関ドアを開けて、光太郎さんが出ていく。ガシャンと音を立てて閉まったドアは、拒んでいるかのよう。あたしが開けないと光太郎さんへは繋がらないんだ。

 傘を掴み、玄関ドアを開けて外に出る。これでもかと言っているみたいなどしゃ降りの中、光太郎さんの後ろ姿が、コンビニの駐車場へ歩いて行くのが見えた。