「今日もスクーターで?」
「歩いてはキツイからね」
「ですよね」
会えて嬉しいけど、なんだか変に緊張してしまう。今日の日替わり弁当でもご案内しようかしら。
「ええと……豚しょうが……」
「いつものですね」
「でも日替わりも良いなぁ」
「是非。嫌いなものが入ってなければ、いかがでしょう」
少し考えているみたいだ。で、決まったみたいで、頷く。
「でも、豚しょうが焼き丼にする」
「……かしこまりました」
あたしが書いた日替わりメニューのボードを見て、気乗りしなかったのかな……。「豚しょうが丼ひとつ」と、厨房に伝える。レジに戻ると、光太郎さんが千円札をカルトンに乗せていた。
「自転車で仕事に来たの?」
「はい」
「どうすんの、雨降って来ちゃったよ」
変なことを聞くなぁ。どうすんのって言われても……。
「自転車、押して帰ります。傘差して乗るわけにいかないし」
「……そ」
「傘差して自転車に乗るのって、凶器だと思いません? 片手運転ですし」
「……そうだね」
「曲芸みたいですよねー」
少しでも和ませようと思って喋っているんだけど……なんだか、光太郎さん、ちょっと様子が変。爽やかじゃないぞ今日。こんな光太郎さん初めてだ。自分だってスクーターで来て、いまポツポツ雨降ってるし、帰り危ないから。
「雨の二輪が怖いの、知ってますから」
どや顔で言ってみせる。本当に、危ないんだから。
ねぇ、なんかさ。変だよ、笑ってよ。いつも爽やかに笑うのに。光太郎さんはなんだか難しい顔をしている。
「いま、教習どのへん?」
喋る内容は軽やかだけど、表情が軽やかじゃないよ。あたしもなんだか不安になってくる。怒ってるの……?
「2段階まとめの時期ですよ、もう。2時間連続で乗ったりしてたから」
「じゃあもうすぐだね、卒検」
「そうですね。自信が無いんだけど」
あたしは、駐車場で練習したことを思い出して、少ししんみりしてしまう。免許を取ったら、当たり前だけどああいうことも無いんだよな……。
「バイク、決めないといけませんね」
厨房から、フライパンで炒める音が聞こえる。「少々お待ち下さい」と言って、盛り付けに向かった。
安定の、少しだけご飯サービス。今日もいつも通りの豚しょうが焼き丼。安定の豚しょうが焼き丼。
いつも通りなんだから。今日も美味しいですサクラクックのお弁当。光太郎さんが美味しく食べてくれますように……。